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平成27年度調査研究部報告

「軽度認知障害(MCI))にみられる発達障害の有病率に関する調査研究」


本調査の趣旨と目的

 近年、北欧において注目されている高齢期に顕在化する発達障害者の実態や現状を把握することが、高知県内でも実態を知ることが精神保健政策上重要であると考えた。そのため本調査研究において県内初、日本でも初めての高齢者の発達障害者の有病率を明らかにすることを目的とする。


1.研究目的・背景

  • 疫学調査 高齢期に顕在化する発達障害の発生率を明らかにする
  • 閉経期には女性ホルモンが減少し、そのため海馬保護作用が減弱しそれまで隠れていた発達障害が顕在化することが報告されている。
  • 更には、幼児期/児童期/青年期/成人期との状態像と差異と、その特徴について明らかにすることができれば、初老期/高齢者に多い認知症性疾患との鑑別に役立つ
  • 調査対象施設:認知症疾患医療センター(5施設:高知大、渡川病院、一陽病院、高知鏡川病院、県立あき総合病院精神科)および県内精神科病院および精神科クリニック協力施設

2.研究方法

(1)高知県内医療機関受診・応需の施設へのアンケート調査

(2)目標データ数  100症例
  1)対象者年齢:55歳以上
  2)自記式アンケート調査に協力可能で、同意取得が可能な人
  3) 評価方法:
     ・基本調査項目
     ・身体的・精神科的治療歴
     ・評価
       ①AQ(Autism-Spectrum Quotient) ②WURS(Wender Utah Rating Scale)
       ③ADHD成人版  ④簡易型WAIS-ⅠⅠⅠ(2項目版)

(3)調査期間  2015.4.1~9.30
   データ回収 2015.10.1~10.31
   結果作成報告 2016.2月末予定

(4)調査は高知大学医学部倫理委員会の承認を得て行う。


3.調査結果要旨

 近年、65歳以上の高齢期に物忘れを主訴として医療機関を受診する発達障碍者が注目されている(Taina G et al、2013)。この背景には、海馬組織の神経細胞保護作用を有するとされるエストロジェンが女性の閉経期に減少し、海馬損傷により物忘れが顕在化するためであると考えられている。これまでADHDは幼児期や児童期に診断され適切な療育がなされてきたが、高齢期のホルモンバランスをはじめとする老化現象の影響で、症状が潜在化し、高齢期になり社会的な問題や、健康上の問題として、医療機関を受診する患者の実態は本邦ではまだ明らかでなく、疫学調査もほとんど見受けられない。そこで本調査研究では高齢期に顕在化する発達障害の発生率を明らかにし、幼児期/児童期/青年期/成人期との状態像と差異と、その特徴について明らかにすることを目的とした。研究方法として、対象は2015.6.1~11.31 高知大学医学部附属病院および地域型認知症疾患医療センターを受診し、以下の基準を満たした者、1)物忘れを主訴として受診、2)MCI(軽度認知障害)3)55歳以上、4)研究参加の趣旨に同意し、書面にて参加同意を得られた者である。調査内容は、基本調査として年齢、性別、身体合併症の有無、かかりつけ医の有無、AD/HDのスクリーニング検査(自記式アンケート)とWAIS-III(2項目版)を施行した。倫理的配慮として、高知大学倫理委員会承認(登録番号:ERB-100898承認番号:26-59)を得た。 また、本研究は高知県精神保健福祉協会の研究助成を得て行った。

 調査結果では、調査参加者は31名で、男性6名、女性25名であった。平均年齢は71.3歳でWAIS-III2項目版での推定IQは86.2であった。先行研究によるWURS(Wender Utah Rating Scale)のカットオフ30点を用いてMCIの併存としてのpossible ADHDの有無を鑑別すると、31名中3名9.7%がMCI with possible ADHDであった。2群での比較では年齢、学歴、閉経年齢、推定IQに有意差はなかったが、ADHDスクリーニング児童期と現在およびASRA-A/Bで両群間で有意な差異がみられた。possible ADHD3名はいずれも女性であり、自覚的な社会的交流は高い傾向であった。これらの結果から、高齢期にみられるMCIにおいては女性の高齢ADHDの事例が稀ではないことが示唆された。同時に本研究調査ではアンケートの方法やエントリーに課題があるなど研究の限界点も明らかとなった。そのため、調査方法を改善して、今後さらに対象者を増やした検討が必要である。




平成24~25年度調査研究部報告

「高知県における認知症患者の未治療期間に関する調査」

報告要旨

 近年、統合失調症の予防対策として、注目されている未治療期間(Duration of untreated psychosis )を用いて、認知症症状が出現してから臨床診断が下されるまでの期間を高知県内で調査した。
 研究目的は認知症の発症から臨床診断が下されるまでの期間にどれくらいの期間がかかり、また地域性や医療資源の有無の影響を明らかにし、今後の地域での認知症対策作りに貢献することを目的とした。
 今回の調査結果では、FTLD、高次脳機能障害は施設に偏りがあったが、それ以外では大きな差はなく県内全体から比較的まんべんなく認知症の鑑別が行われていた。全体の平均DUPは2.3年、中央値は1.8年で、地域別で若干の差が見られたが、大きな偏在とまでは言えないと思われた。また若年発症のDUPが長い傾向であり、今後若年発症の正確な臨床診断・鑑別診断技術の向上が必要と考えられた。DUPが長くなる要因には、1)若年発症例であること、2)若年発症の血管性認知症例、3)高齢の高次脳機能脳障害という特徴が見られたため、これらの要因に関する鑑別診断や医療機関どうしの連携や紹介システムが重要であると考えられた。さらに認知症の精神症状・行動障害が顕著となってからの臨床診断に結びつく傾向があった。このため、精神症状・行動障害が出現する軽度レベルでの認知症診断に結びつける教育普及・啓発活動が重要であると思われる。

研究組織図

研究組織:高知県精神保健福祉協会 調査研究部 代表:上村直人
調査研究班員下寺信次(高知大学)、佐藤博俊(はりまやばし診療所)、山内祥豪(県立あき総合病院精神科、現清和病院)、澤田健 (県立あき総合病院精神科)、須藤康彦(土佐病院)、清水博 (海辺の杜ホスピタル)、真田順子(菜の花診療所)、諸隈陽子(一陽病院)、福島章恵(高知大学)、今城由里子(高知大学)、井上新平(高知大学名誉教授、現福島県立会津医療センター)
1.調査内容
初診時年齢、医療機関の場所、認知症のDUP(Duration of untreated psychosis)、発症年齢、治療開始年齢を郵送方式で施行。
2.調査方法
調査対象方法:アンケート調査を郵送調査で施行。
調査期間:2013. 4.1~6.30 回収期間 2013.7.1~7.31
対象施設:書面にて調査研究協力の同意の得られた県内11施設
3. 調査結果
 上記の方法で、11施設から300事例の回答があった。300事例中、分析可能であった295事例を元に分析を行った。その結果、認知症医療・ケアに関する普及啓発活動にはまだまだ取り組むべき課題が明確化されたとも思われる。認知症の医療やケアは精神医療のみでは完結しないのは自明の理であるが、今後本調査から得られた結果をもとにして多職種との地域連携を図りながら、県民の精神保健向上に貢献ができるものと思われた。そして、本調査から得られた結果を総括し以下の提言をしたい。
~提言~
1)若年発症のDUPが長い傾向であり、今後若年発症の正確な・適切な時期の臨床診断・鑑別診断技術の向上が必要と考えられる。
2)DUPが長くなる要因は、1)若年発症例であること、2)若年発症の血管性認知症例、3)高齢の高次脳機能脳障害という特徴が見られた。そのため、今後これらの要因に関する鑑別診断や医療機関どうしの連携や紹介システムが重要であると考えられる。
3)認知症の精神症状・行動障害が顕著となってからの臨床診断に結びつく傾向があるため、精神症状・行動障害が出現する軽度レベルでの認知症診断に結びつける教育普及・啓発活動が今後も重要であると思われる。


*お問い合わせ及び調査成果物の入手については、

「〒783-8505 高知県南国市岡豊町小蓮 高知大学医学部精神科
 上村直人(かみむらなおと)宛 088-880-2359 FAX088-880-2360 Email:kamimura○kochi-u.ac.jp」でお願いします。

平成24年度研究課題「高知県における認知症性疾患の未治療期間の検討」

調査研究目的

 近年統合失調症の早期介入研究では、早期発見・早期治療の有効性を検討する上で精神症状の発症から臨床診断を受けるまでの期間を未治療期(Duration of untreated psychosis )と定義し、介入効果の指標にされてきた。認知症においても早期発見、早期治療の意義について指摘されているが、認知症の初発症状が出現してから正確な臨床診断が下され、適切な認知症の治療やケアを受けるまでの未治療期間(以下DUP)についての検討されたものは少ない。我が国はすでに超高齢社会を迎え、認知症者の予測もはるかに超える勢いであり、特に高知県は10年先の日本の社会状況を示しているとも言われている。また高知県の政策においても「健康長寿県構想」として中山間地域を抱え、医療的過疎となった地域在住の高齢者の認知症対策が喫緊の課題である。

 そこで認知症の発症から適切な認知症の治療を受けるまでにどの程度の期間を要しているのかといった認知症の未治療期間について調査を行うことにより、認知症者の早期発見・早期治療を阻害する要因を抽出し、認知症の未治療期間の短縮化を可能にさせる手法を確立する基礎的データを得ることができる。そして高知県における認知症対策やひいては認知症患者を介護する家族の介護負担を軽減させることにつながると思われる。

調査協力施設(予定)

 高知県内精神科病院 3地域の中核病院 その他高知県内もの忘れ外来

研究方法

1)アンケート調査 

2)調査内容

(1)基本項目

(2)DUP関連

 発症年齢、認知症に関する初診時期、認知症、背景疾患、重症度の評価の有無、初症から受診までの期間、BPSDの出現から受診までの期間、初診時から治療開始の時期(正しい診断と背景疾患の特定化、重症度評価を行ったうえでの薬物治療、非薬物理療の開始時点)までの期間

3)実施期間

      H24年9月~12月の期間 外来・入院を問わない

調査研究委員会 平成22年度事業報告

研究課題名:自殺未遂患者のアセスメントと介入に関する意識調査

1.調査研究の概要

1)研究の目的・意義

 我が国の自殺者数は年間3万人を超える高水準で推移している。高知県においても自殺者数は高水準であり、県は平成21年に「高知県自殺対策行動計画」を策定し、平成28年までに、自殺死亡率を平成17年と比較して20%以上減少させることを目標に取り組みを進めている。

 自殺を図った者は、身体的な処置・治療のため、救命救急センターや外科など精神科以外の診療科を最初に受診することも多い。救命救急センターに勤務する看護師への調査によると、自殺未遂者に対しては、心情の理解や専門家としての役割を遂行しようと接近的態度をとる場合もある一方で、自殺未遂患者を受け入れ難いために積極的に関わることができなかったり、ケアの限界を感じたりと、ケアにおいて困難を感じていることが明らかにされている。自殺未遂患者に対しては、身体的治療と並行して、自殺企図を繰り返さないよう精神的な支援が重要であり、最初に治療を受ける場におけるケアを充実させる必要がある。

 本研究では、高知県内の病院勤務の看護師を対象に、自殺未遂患者のアセスメントや介入に関する意識を明らかにすることを目的とする。自殺未遂患者に対するアセスメントや介入が明らかになることで、自殺未遂患者に対するケアの課題を明確にできると考える。

 また、自殺未遂患者に関わる際に困難を感じている看護師に対する支援への示唆も得られ、高知県における自殺対策への一助となると考える。

2)研究期間

平成23年2月〜平成23年12月

3)対象者

 高知県内の100床以上の病院で、精神科病棟以外に勤務し、自殺未遂患者に関わった経験がある看護師

4)研究方法

 研究承諾をいただいた病院に、研究者が作成したアンケート用紙を配布し、郵送にて回収する。データは単純集計し、自由記載に関してはアセスメントや介入の内容について質的分析を行う。

2.調査研究の進捗状況

 1月上旬に高知女子大学倫理審査委員会の審査を受け、一部修正をして再提出を行った段階である。倫理委員会の承諾が得られたら、対象病院への依頼および調査用紙の配布等を実施する。

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